真説・昭和新山

ブラック・ジャックは山に遭難している男を救出しようとして転落事故にあった医者に話を聞く。
「先生。その男、手がはさまっているそうですが」
「ああ。小さな穴につっこんだまま、どうしても抜けないんだ」


 * * *


ブラック・ジャックは男の手を穴から抜くことができない。
「お前は助かりたいか。死にたいか」
「助けて」
「だったら腕一本なくすぞ」
「かまわねえ」
「ここに署名するんだ。腕切断料300万円。大サービスだ」
そしてブラック・ジャックは男の腕を切断する。すると切断した腕は穴から抜ける。そこからぬいぐるみが。
「アハ。出た!」
「馬鹿野郎。それを穴ん中で握っていたから抜けなかったのか!」


 * * *


怒り狂うブラック・ジャック
「間抜けな猿をつかまえる話を知っているか。ひょうたんに米を入れて穴をあけておくと、猿がそこから手をつっこんで米を握るんで、抜けなくなるんだ。てめえは猿以下だ」
「なんで手を切った? だいじな手を! 抜けたのに」
「手の一本ぐらいなくしたほうがいいんだ。それともあと300万円出すかね。またつけなおしてやるぜ。クソが。そんなもんさっさと捨てやがれ!」
「そ、そんなもんだと! おまえには価値がないかもしれないが、これはおれにとっては大事なものなんだ!」
男の声は怒りに震えていたが、ブラック・ジャックにはその表情が読めなかった。男の表情を代弁するかのように足元におちたぬいぐるみの目が哀しく光る。ブラック・ジャックはぬいぐるみを手にとる。
「ちっ。いいか。おまえのためじゃない。このぬいぐるみがこんな目でみやがるから、しょうがなくだぞ。下山したらくっつけてやる」
「ありがてぇ! 先生、この手、もう一度ちゃんとうごくようになりますかい?」
「…なるさ。なるとも」


 * * *


半年後、完全復活を遂げたパペットマペットが、お茶の間で大ブレイクすることになるのだが、それはまた別の話である。