黄金率美少女戦士ただいま推参!

「いいからおまえそっちよこせよ!」
「い、いやだ! これはボクの……うっ……」
台本どおりのやりとりを、朽ちはてたビルのネオンの上から、するどく見つめる人の影。
夜の空に飛び出したその人影は、十階以上の高さなど微塵も感じさせずにふわりと舞い降りた。
少女はすっくとたちあがると、ポーズを決めて大見得を切る。
「闇夜にうごめく不当配分、天にあだなす不平等、親の総どりゆるしません!
黄金率美少女戦士 ゴール・デン子、ただいま! 推! 参!」
悪漢が呆れ顔でつぶやく。
「そのネーミングはどうかとおもうぞ」
「しょうがないでしょ作者にセンスがないんだから!」
「それは同感だが、尺もないのでとっとと行くぞ! 死ね! デン子!」
悪漢がナイフを振りまわしデン子に詰め寄る。二度、三度、すんでのところでナイフをかわす。が、ズルリッ。ぬかるみに足をとられ倒れこむ。
「ふふん。ちょうどAパートも終いだ。CM前に片付けてやるぞ」
「番組のヒキとしては、ここで商品みせとかないとね」
「なるほどスポンサー思いなのはいいことだが、それはさておき、死ね!!」
ガキィン!! 金属音が半身をひねったデン子の背から響く。ナイフを止めた異形の鉄塊。悪漢のあごをかかとでとらえ引き倒し、デン子はゆっくりとたちあがった。


アイキャッチ

CM:コンパッソレオナルドジェニオ(黄金比デバイダー)
http://www.wada-denki.co.jp/bunguho/ctlg0760.html

アイキャッチ


デン子が背中に手を回す。1mはあろうか。マットメタルの鈍い輝きを放つ、コンパッソレオナルドジェニオがその姿をあらわした。
「開口!」
先端が三つ又に分かれる。1対1.618の間隔に開いた三つの先端が、悪漢の一挙手一投足にあわせて開閉する。
「そんな子供だましにやられるかよっ!」
襲い掛かる悪漢の一撃をかわし、コンパッソレオナルドジェニオの先端を顔面直前にピタリとあてる。
「目と鼻のバランス……黄金比じゃ、ありま、せん!」
デン子は鉄塊の尻に衝撃を与え、悪漢の顔に風穴をあける。その数三つ。
「腕と体のバランス……うつくしく、ありま、せん!」
「右足と左足……エレガントじゃ、ありま、せん!」
デン子は悪漢のボディをつぎつぎと測定し、黄金率でない部分に黄金率を刻んでいった。
動かなくなった悪漢はまるでダヴィンチの絵のように大の字になって横たわっていた。デン子は悪漢に最後の黄金率を刻み、カメラ目線でキメゼリフ。
「この世に悪と美しくないものの栄えたためしはないのよ! 黄金率でないものをデン子とこの子は見逃さない! 黄金率美少女戦士 ゴール・デン子! ごようの際は、1.618と唱えてね」
ブラウン管のまえのみんなにウィンクを飛ばしたデン子は、くらがりにしゃがみこむ少年に声をかける。
「ねえあなた。あいつになにをとられそうになったの?」
少年が大事そうに握っていた両手を開く。割れたビスケット。
「ジョリィのヤツ、ボクとはんぶんこしようなんて言うから……。あいつのほうが体おおきいんだからおっきいほうを……」
「カーッ!」
デン子がコンパッソレオナルドジェニオを振り下ろす。
「いいこと! あたしの目の黒いうちは黄金比で分けなきゃゆるしません! はんぶんこなんてもってのほかよ! 黄金比! これ正義! 黄金比! これ究極! 黄金比! イツァワンダフゥワーゥド! ……あら?」
少年の返事がない。
デン子はキョロキョロとあたりをみわたしたのち、自分のポケットにビスケットをしまった。