小説『DEATH NOTE』 - ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつ

デスノがなければオレノを書けばいいのに
http://kill.g.hatena.ne.jp/xx-internet/20061119/p1

ちなみにレギュレーションは守ってない。

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「なんだその絵は?」
鍬を担いだままの父上が僕に問いかける。
「……ただの絵じゃないよ。ものごとを伝える絵なんだ。これがヒトの頭。こっちの曲がった二本線が水。頭の横に水の絵を書くと飲むっていうことにしたんだよ。他にもいろいろあるよ!」
「おまえ畑も耕さずにそんなことしてたのか! それは禁行だぞ! 神官様に知れたら村ごと滅ぼされる」
「なぜ? この約束ごとがあれば口伝役人さまお一人で百もの王のお言葉を遠国にお伝えすることができるよ! 神官さまもお喜びになるはずだよ!」
「ダメなものはダメなんだ! おまえのやったそれはな、国を滅ぼすのだ! これまで何度も大きな国がそれで消えていったのだ!」
「わけがわからないよ! 絵が国を滅ぼすわけがない!」
「いいから、それのことは忘れるんだ!」
「いやだ! 父上はこの絵のすごさがわかってない!」
そういって僕は外に駆け出した。父上はわかってない。この絵は僕たちに必要なんだ。この絵があれば僕たちの村はもっと豊かになれる。王様だってゼッタイお喜びになるのに! 息を切らしながら走りに走って、僕はいつのまにかトンガリ山のふもとに立っていた。
トンガリ山にはいくつもの穴があいていてそこから差す夕日が僕の足元に綺麗な模様を作っていた。その光の中になにか黒いものがおちている。
僕はそれをひろいあげた。それはぺらぺらのうすい葉を束ねたようなものだったけど、綺麗に四角く断ち切られていた。町の金細工職人なら作れるだろうか? でもこの白いぺらぺらは金でもないし銀でもない。いったい何なんだろう。
バサァっ
大きな羽音を聞いて僕はトンガリ山のほうを見た。夕日の中になにかヒトのような、大きな鳥のような影が見える。その影は僕のほうに一直線に飛んできて、目の前に舞い降りた。
大きな目と口。黒い肌、背中の羽。アクマ。父上の昔話に出てくる異形のモノの姿かたちにそっくりだ。僕はさっき拾ったものを胸に強く抱いて、たずねた。
「お、おまえアクマだな! 僕のところに何しに来た!」
「はぁ? アクマぁ? ちがうなぁ」
そいつがニヤリと笑う。
「おれは死神だよ。おまえが手にしているそれの持ち主さ。だがおまえにやる」
「……これはいったい何なんだ?」
デスノートさ」
デスノート?」
「そこに名前を書けば、殺したいヤツを殺せる」
「殺す? ……う、うわぁっ」
僕はそれ……デスノートを放り出した。
「なぁに簡単さ。おまえの気に入らないヤツの名前をそこに書き込めばいい」
死神はトンガリ山のほうをアゴでしゃくった。
「昔はこのビルの中にもひしめくほどの人間どもがいてなぁ。それがみんな死んじまったのさ」
ビルとはこのトンガリ山のことだろうか? よくわからない。
「なぜ死んだの?」
「おれが知るわけないだろ?」
いやぜったいに知ってる。死神の顔色を伺うなんて僕にできるわけないけど、なんだかウソをついてるってことだけはわかった。もしかしたらこのデスノートってヤツで昔の人は死んだのかも。
「なあおまえ。文字が書けるんだろ?」
「文字?」
「おまえがやってる絵さ。今の人間は文字も使えないんだよ」
あの絵は文字って言うのか。文字。……文字! なんだろう? 僕は誇らしいような、嬉しいような不思議な気持ちになった。
「この世界で文字を使えるのはどうやらおまえだけだ。つまりデスノートに名前を書けるのは、おまえだけ。これを使えるのはおまえだけなのさ」
僕だけ? 僕だけ!
このデスノートっていうのは、僕だけが使えるのか! 世界中で? 僕だけ? 父上にも神官様にもできないことが、僕に……できる!
「なぁ。試しに使ってみようぜ? おまえにも気に入らないヤツくらいいるんだろう?」
いる。前の戦で僕の村を襲ったテハベ村の連中は許せない。そうだよ。父上だってあの村の連中は許せないって言ってたじゃないか。僕には弓の腕はないけど、これなら僕でも使えるんじゃないか。
「よしじゃあ書いてみろ」
「でもテハベ村の村長を表す絵……文字を決めてない」
「決めてないってことは今決めればいいんじゃねぇか?」
死神は興味なさそうに言った。僕はひとしきり頭をなやませたあと村長の名前を表す文字を決めた。予備の矢じりに泥をつけて、その名前を書く。
書き終えたとき僕の中に熱いものがこみあげてきた。僕の作った文字が復讐の役に立ったんだ! なんだろうこの気持ち! すごく嬉しい! 僕はテハベ村の連中の名を表す文字を次々に決め、書き込んでいった。

僕の文字はすごい力を持っているんだ! しかも僕はどんどん文字を作れる! この力はどんどん強くできるんだ! これなら父上だって認めてくれるだろう。神官様や王様にだって認めてもらえるかもしれない! 

いや! 僕だけが使えるこの力があれば、僕が王様にだってなれるかもしれない!

僕はデスノートを持って、村のほうへ走り出した。