「なぜ魔女はホウキで飛ぶのか」がわかった。

古来より魔女はホウキで空を飛ぶものだけれども、仮にこれが作り話だと考えるととたんに話は難しくなる。ホウキで空を飛ぶ、という突飛な発想が中世人の脳に発生したことに納得のいく説明をつけるのが大変困難だからだ。
人間にはそんな発想はできない。
ちがうのだ。そうではない。あの時代、実際に魔女はホウキで空を飛んでいたのだ。空想でも妄想でもなく、現実的、科学的な必然としてホウキこそが魔女が空を飛ぶのに最適な形をしていたのである。
なに簡単なことだ。
魔女のオフィシャルライディングスタイルを想像してほしい。
魔女はホウキにまたがると両手で柄をグリップする。当然魔女なのでギラ系の灼熱魔法が使えるだろう。
彼女がギラを唱えると両手から発せられた熱が竹の柄内部の分子を熱する。熱せられてエネルギーを有した分子たちはホウキ後方に射出され、推進するというわけである。末端のブラシ形状は推進力の方向制御、流速制御に一役買っているだろう。
もちろん、柄の前方は空気の取り入れ口となっている。筒内の空冷に使うのか、あるいはラムジェットとして使うのかは箒ごとによって異なる。箒職人の思想が最も反映される部分である。
そしてもうひとつ、私が気付いたことがある。
竹の形状がこのような推進装置に向いているとすれば、あるいは竹取の翁が竹林で見つけた黄金の竹も同じものだったのではないだろうか。
発熱によって黄金に光り輝く竹。
その内に小さなパイロットを乗せた竹が月に向かっていままさに飛びたたんとするところを、翁の斧が無常にも切り落としてしまったと、そういうわけである。