大規模ショッピングモールのフードコードではみんながビーフペッパーライスを食べている。

率直に言うと、私はフードコートというヤツがニガテである。
ごみごみしているとか席取りゲームが5秒に一回繰り広げられているとかアニメキャラがへばりついた豪華な子供キャリアが邪魔くさいとかそういうことではない。混雑するに決まっている場所に行っておきながら混雑にケチをつけるほどコドモではないつもりだ。
そうではなく、みながみなビーフペッパーライスを食べているのが妙な気分なのである。なんというか敗北感にさいなまれるのだ。
店舗側の意図が見え隠れする。
フードコート内をおおうビーフの香りはすべての店舗を凌駕して庶民の鼻腔をくすぐる。匂いに誘われて一人、また一人と列に並ぶ。
ぼくオムライスー、私はうどんにしようかしら。お父さんは? うむ、ビーフペッパーライスがよかろう。なにしろ一家の大黒柱だからな。そうね、フンパツしちゃおうかしらネ。あはははおほほほ。
そんなフードコートの様子を一望できる中二階のVIPルームではフロアマスターがブランデーをくゆらせ、「愚民ども」と言っているのである。まさしく人生交差点。ハイアンドロー。天は人の上に人を作る。作ってのせる。
それがわかっていてなお、ビーフペッパーライスを食べてしまう自分自身に失望してしまうのである。人がビーフペッパーライスを食すとき、それは敗北なのだ。自分が負け組であることを、鉄板を通してまざまざと突きつけられているのである。
もちろん食べなければいい話ではある。ビーフペッパーライスを食べなければ、人生の勝敗はネクストゲームに持ち越せるはずなのだ。
だが、うまい。うまいのだ。あつあつの鉄板にこんもりと盛られたビーフと濃い味付けのペッパーライス。時間を置くとライスはおこげ状態となる。スプーンで鉄板をこそげ落としながら口に運ぶ。カリカリとした食感がまた味わい深い。紙コップに注がれたビールも暴利をむさぼる価格設定だが五臓六腑にしみわたる。くっはー。
食べ終えた私は鉄板を食器回収棚にそっと置く。
人生の負けを感じながら、つぶやく。
「また来週も来ようっと」
まったく。
私はフードコートというヤツが本当にニガテである。