中華料理店に行くとたいてい福の字がさかさまに貼ってある。

中華料理店に行くとたいてい福の字がさかさまに貼ってある。思うに古代中国では天井が床だったのだと思う。天井を床にして多くの人が生活していた。逆さ福はそのときの名残なのである。
今でこそ床を床として暮らす人間が大半になってしまったけれども、当時は天井に住む人も床に住む人も互いに仲良く暮らしていたのだ。だが天井をもわがものにせんと床人は天井人を抹殺した。自分たちが生きること能わぬ場所まで手にいれようとする床人のおろかさよ。そして、その惨劇は黒歴史として人々の記憶から抹消された。逆さ福の、鮮血がごとき赤色だけがその凄惨な歴史を物語る。
おれはラーメンをすすった。テーブル横の逆さ福がはがれかけている。当時の天井人に…彼らの無念に想いを馳せながら、逆さ福の端に指を沿わせ貼りなおす。それに気付いたのか、厨房から店主が声をかけてくる。
「アイヤー、お客さん、いいひとネー」
店主は生粋の日本人である。