「これはパイプではない」

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「これはなんだ? いってみろ?」
システィナの最終審判図の前で尋問とは気が利いている。縛り上げられた両手。荒縄が食い込み、血が滲む。おれのとなりにいる3人の学者連中も痛みに顔を歪ませていた。
「おいどうした? これはなんだと聞いているのだ」
一枚の「絵」を手にしたまま、大司教が右足に力を込めた。その右足と大理石のあいだで頭骨が悲鳴をあげる。痛みにあえぎながら、年老いた数学者がつぶやいた。
「そ、それはパイプです」
「そうだ。パイプだ。誰の目にも明らかだろうが?」
数学者は解放され、別室に連れて行かれた。残る二人も、それがパイプであることを認め、部屋をあとにする。のこるはおれ一人か。
「他の学者どもはあたまがいいようだ。おまえはどうだ?」
「おれは真実を口にするだけだ」
「真実はおまえにはない。わしが手にしているものだけが真実だ」
その言葉が、奴の手の中の「絵」のみをさして言っているのではないことがわかった。
「もう一度問う。これはなんだ?」
大司教が「絵」を放り投げる。おれの目の前に「絵」が大写しになった。目をつぶり視界から「絵」を追いやる。
「これはパイプではない。それでも地球は回っている」
執行官の大鎌がおれの首をはねた。