きょうは君たちにかみしもの話をしよう。

裃(かみしも)ってあるだろう? とくにあの肩衣(かたぎぬ)。あれは武士が空を飛んでいたころの名残なんだ。昔の武士はあの大きな肩衣に空気をふくみ、戦国の空を縦横無尽に飛びかっていたんだよ。だがいつしか世界は平和になり、武士は空を飛ぶことをやめた。「飛べない武士はただの武士だ」と揶揄されながら、多くの武士が地上武士として生きることを選んだ。時代の流れだった。
だが一部の武士たちは、いつか空に戻ることを誓い誇り高く生き続けたんだ。
「あのころのわしらは正に生きておったよ。あれが生きていたということなんじゃ。おまえも心に裃をもて。袖を通せ。武士のいるべき場所はここではない。あそこなんだ」
梅雨の晴れ間。薄日差す新宿の空を見上げながら、死んだ爺さんの言葉を思い出した。