人肉は飲み物だ*1
「人肉は飲み物だ」
なぜカニバリズム芸人をはじめたのかというインタビュアーの問いに、彼はそう答えた。
「発端から話すなら、ギャル系大食い芸人の台頭だな」
「はあ」
「デブキャラ・大食いキャラではかぶる芸人が多すぎるんだよ。そこにギャル系ときたもんだ。キャラはかぶらないし、細い体で大食いという意外性もある。テレビ映えもいい。何よりTシャツがグレーじゃない」
「Tシャツ関係あるんですか?」
「関係ないな。で、まあ、わしも他の大食い芸人との差別化を図るために人食に乗り出した、それだけのことさ」
「それだけのこと、というわりには人食のために肉体まで改造なさっていますが?」
「肉体改造など些細なことだよ。このカラダにしたのは、視聴者のためを思ってだ」
そういって、下あごからへそまで一直線に伸びるジッパーを上げ下げした。開いたジッパーの奥でピンク色のひだひだがびくんびくんと波打っている。
「人食というものが残酷でむごたらしいものだ、という昔ながらの観念にとらわれた視聴者はまだいる。一部の免疫医療では病体摂取などの人食は認められているのだが、それはともかく人食を不快に思う視聴者が未だいる以上、スマートに人食しなくてはいけない」
「それで、おなかにジッパーをつけて丸呑みを?」
「そうだ」
「だから、人肉は飲み物と?」
「ものわかりがいいじゃないか。そのとおり。人肉は飲み物だ。それも極上のな。……さてもうインタビューは済んだかな?」
「ええまあ」
「では、せっかくなので食われてみるかね?」
そういって芸人は立ち上がり、体のジッパーをあけてインタビュアーに覆いかぶさった。インタビュアーのスカートが巨体の影でなんどかはためいたが、ほどなくして静かになる。
ジッパーを引き上げカメラに向き直る芸人の口からは、マイクをもった右手が突き出しており、ある種間抜けな姿をさらしていた。編集ルームではその映像に観客席の笑い声をかぶせた。