セキュアな通信の話

結局のところ、ネットワーク通信である限り完璧なセキュア通信というものはありえないというのはわかりきったことで、たとえば経路上の傍受はないですだとか、とんでもない暗号使ってますだとか言っても、第三者のケーブルを経由している時点でもはや信用なんてない。
重要な情報をセキュア(安全)に届ける方法は、結局対面通信という原始的手段に戻るしかないのだ。対面であれば、その部屋をシールしさえすれば相当セキュアになる。
α
「だから?」
「だから、僕はここに来たんですよ。やっぱり回線越しに告白するのもなんですし。直接会って言うべきだと思うんです」
α-1
「……」
「ただ問題は、いままで回線越しでしか知らなかった君といま目の前にいる君が同一人物かどうかという保障がないのだけれど」
「じゃあくんな」
β
「でもシールした部屋があってもそこに人物がたどり着くまでがセキュアじゃないわ」
「そのとおりです。ですから僕はセキュアを必要とする状況事態を疑うことにしました」
「それってもしや」
「そうです。ひとつになってしまえば、セキュアだなんだということはありませんからね。通信そのものがなくなる」
β-1
とぷん。
気がつくと我々は生命のスープに溶け込んでいた。
ひとつの存在になった我々は、もはやコミュニケーションに悩むことはなくなったのだった。
? 我々? 我々という言葉に違和感を感じた我々は我々という呼称を捨てた。
β-2
カチリ。
「! いま何したの?」
「なに、世界を滅ぼすだけです。僕一人になれば通信という概念など必要ない」
α-2
「でも私、あなたのこと知りませんよ?」
「いいじゃないですか。これから知れば」
「え、ちょ、いや! なにするんです! いやーーっ!!」
完全にシールした部屋からはいかな情報も漏れ出ることはなかった。
γ
「へぇ。それで対面通信などと酔狂なことを?」
そういうと蕎麦屋はつるりと顔をなで上げ、のっぺりとした白面をさらした。