殺人UFO
「よもや、探偵さんを乗せてフライトするとは思わなかったよ」
「私も、まさかUFOの殺人動機を調べることになるとは、夢にも」
謎の飛行物体が軌道上に現れてから5ヶ月がたっていた。
出現から4週間、あらゆる通信に応えない飛行物体に対し、最初の接触を試みたのは国際宇宙ステーションの軌道ボートだった。
そして。
物体に接舷しようとボートが減速、停止した瞬間にそれは起こった。
ボートの一部だけを残して、ボート本体が消失したのだ。
観測チームはパニックに陥った。
その後、ステーションから報告が入った。事件とほぼ同時に船体の一部が切り取られたボートがステーションに出現。内部からは、船長以下3名が体の一部を切断されて死体で発見されたのだった。
その後、調査隊が二度接触を試みたが、いずれも接舷直前に切断、破損した船体と死体が基地に瞬間転送された。
「で、探偵さん。本当に大丈夫なのかい? おれは死にたくないぜ?」
「私だって死にたくはありませんよ。UFOの殺人目的がわかればとっとと退散しますとも」
「そりゃありがたいね。で、さっき投下したアレ、二つともただの鉄塊だろ? いったい何だね?」
「いいから見ててください。そら、UFOに接触しますよ?」
次の瞬間、鉄塊は二つともその一部を残し、消失していた。数分後、ほぼ同時に二か所からの通信が入った。
《こちらヒューストン。物体Aの90%の出現を確認した》
《こちらは月面基地だ。驚いたな。こちらも物体Bの90%が出現したよ》
「……探偵さん。で、いったい何がおきたんだい?」
「あの鉄塊はですね、一つはヒューストン、もう一つは月面からもってきたんです。それをUFOに接触させたんです」
「だから、どういうことだ?!」
「なに、簡単なことです。彼らは地球の拾得物取扱いのルールに従っているってことです」
「……鉄塊や調査隊を落し物扱いしたってことか?」
「そうです。落し物は落とし主へ返す。ただし、一割はきっちり取り立てて、残り九割だけを元の場所へ返したということです」
「その結果、乗員は体を切り取られて死んだってことか。しかし、船が飛んでるだけで落とし物ってなふざけた理屈だぜ!」
「多分、接舷のために減速停止したからでしょう」
「はぁ?」
「自由落下状態ですよ。それを《落ちてる》って判断したんじゃないですかね?」
「どんな言葉遊びだよ」
「私に聞かれましてもね。宇宙人の考えることですから。さて、これで殺人の原因もわかったことですし、そろそろ戻りませんか?」
「……」
「船長、どうしたんです?」
「まさかこんな形でチャンスが巡ってくるとはね。探偵さん、アレに接触すれば元来た場所へ戻れるんだな?」
「恐らく戻れますが、船も肉体も破壊されるでしょう。死んでしまいます」
「人間ならな。10%失っても死ななければ問題はないだろう? ……これで故郷へ帰れる」
そう言うと、船長の顔はぐにゃぐにゃと波うちながら変形した。宇宙服からスライム状の物体がするりと抜け出し、船内をぷかぷかと浮遊する。元船長だったそれは触手を伸ばして船体を操作し、UFOへの進路をとった。
「こんな辺境で残りの命を消費しなくてすむたぁ、おれの日ごろの行いかねぇ?」
「ちょ、ちょっとまってくれ船長! わ、私はまだ死にたくない!」
「なあに、失うってもたかが10%だ。運がよければ死にはしないだろ?」
船は静かにUFOに接触すると、次の瞬間消失した。
船長は星の彼方へ消えた。
探偵は事務所に出現した。
探偵の尻は綺麗に切り取られていた。