焼肉のローカルルールはすべて大学で学んだ。

大学で学んだことに、「焼肉で何を焼くか」があった。今日も今日とて自主休講なので、友人宅に集まる。焼肉でもすっか。各々がおすすめ具材を持ち寄ってホットプレートにのせる。
ラム好きのヤツ、うげぇラムなんてくせぇよ牛以外認めねーよってヤツ、とうもろこしをまるごと焼くヤツ、いきなりソース焼ソバを投入するヤツ。家庭の数、地方の数だけ焼肉具材はバリエーションに富んでいた。見たことのない具材たち。なかでも「こんにゃく」と「絹ごし豆腐」は目からうろこだった。おれの焼肉辞書にはなかった。
「こんにゃく」は想像の範囲内だった。あつあつのこんにゃくにエバラ焼肉のタレをつけて口にほおりこむ。うまい。なるほど、これはアリっちゃアリだ。だが白眉は「絹ごし豆腐」。木綿豆腐ではなくあえての絹。そいつ曰く、木綿の舌触りはここでは邪魔なんだとか。焼きやすいように水分を飛ばすなんてこともせずに、一丁を8等分くらいにカットしていきなしプレートへ投入。
片面が焼けてきたら、箸でこう、うりゃっとひっくり返す。くずれやすい。だがそれがいい。両面に焦げ目をつける。じゅうっ。ころあい。ふわとろあつあつになった豆腐をくずれないようそうっと箸でつかみ、焼肉のタレにつっこんで口に放る。おお! うまい! この発想はなかった。焼肉というフィールドで、よもや絹を焼くとは。
大学で学んだことで唯一実生活に役立っていること。それが、焼肉に絹ごし豆腐。これなのであった。これだけなのであった。