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剣を突き立てる。間。敵の腹部から鮮血が飛び出す。
鮮血を形作る数億のポリゴンが、おれの自我境界との接触計算を終えて、境界表面上に留まることを決める。おれの顔と鎧が赤く染まる。
断末魔の叫びとともに、ラスボスが白く輝くパーティクルポリゴンとなって消えていった。
「これでやっと。やっとゲームクリアだ」
いつからだろう。おれはずっとここで戦っていた。情報を集め、仲間を集め、幾百の迷宮と塔を踏破した。村人の苦悩を解消し、国王の暴虐を暴いた。姫君を救い、大軍に立ち向かった。この旅の始まりがどうだったかすらおぼえちゃいない。
「それもこれも全部終わりだ」
「それはどうかなぁ?」
背後で声がしたかと思うと、腹からナイフの先端が飛び出していた。つっ。
「だ、誰だおまえ」
「あっはっは。死んだねぇ、キミ。キミここで終了だね」
血がみるみる広がる。激痛で視界がぼやける。
「……ちくしょう。これで最後だと思ったのに。……最初からやりなおしなのか?……」
背後の声がトーンを落として耳元でささやく。
「もしかしてキミもココがゲームだと思ってるクチかい?」
ナイフに力がこもる。のど元に血が溢れる。
「アレだろ? 倒した敵キャラが死体も残らずに消えるから、ゲームって思ったんだろ? バッカだねぇ。
「アレってさぁ、暴走したゴミ処理用ナノマシンせいらしいよ? 確かにゲームみたいだよねぇ? 死んだら光の粒子に分解されちゃうんだから」
何いってんだこいつ。こいつの言ってることはウソだ。ここはゲームだ。圧倒的な現実感で全身に激痛が走れば走るほどに、おれはここがゲームであると確信してゆく。絶対に……ゲームだ……
「いいじゃん。試してみなよ。死んでログアウトできればゲームってことで済むし、消えてなくなればそれっきりだし。二分の一じゃん?」
足の先から光の粒子となって消えはじめたそのとき、もう一本のナイフがおれの額を貫いた。