いとしの未来ちゃん的リンクベイティングのお話

「あら、眠ってなかったの?」
「うん……何かお話して」
「そうね、じゃあリンクベイティング叩きのお話をしてあげましょう」
「なあに? リンクベイティング叩きって」
「あなたが知らないのも無理ないわね。だってリンクベイティング叩きはもうなくなっちゃったんだもの」
「ふーん。そのおはなししてくれる?」
「いいわよ。むかしむかし、あるところに……」
 * * *
2007年、世界中でリンクベイティングが叩かれていた。中でもタイトル術・見出し術には、過剰なアテンションマネジメントだ、リテラシー弱者を総釣りだなどの批判が集中した。
タイトルはあくまで内容を過不足なく伝えるもの。それ以上のものであってはならない、という時代の趨勢をうけ、コンテンツのタイトルはつぎつぎとアブストラクトキーワードを並べただけのものとなっていった。
一流コピーライターは首を吊るか、アンダーグラウンドに逃げ込んだ。ニコニコ動画での神ツッコミの多くが彼らの手によるものだったが、ニコニコ動画も潰されると彼らもまた消滅した。
アブストラクトキーワードを並べただけのタイトルは検索性にすぐれていた。またたくまにユーザに受け入れられ、その波は出版界にも広がった。
あらゆるタイトルが「美少女剣士:メガネ:ポニテ:妖術:学園:シェアワールドラブクラフト」などのカタチに置き換わってゆく。
書店でも物流でもネットでも、高検索性は重宝された。ついにはすべてのコンテンツ・書籍がキーワードだけのタイトルになったそんなある日、ぱったりと書籍が売れなくなったのである。
不思議に思った編集者たちは書店に足を運ぶ。
まったく客がいない。わけがわからぬまま店内をうろついていると、ふいにその理由がわかった。
本屋に足を踏み入れたときのあのドキドキする感覚がなくなっていたのだ。平積み台も、青背の棚も、萌えキャラのポップを見てもなにも感じない。手にとる気すらおきない。キーワードタイトルだけが記号のように並んでいる空間。本屋はもう、夢のような場所ではなくなったのだった。
 * * *
「というわけで、リンクベイティングは見直されて、叩きはいなくなっちゃったってわけ」
「……」
「あれ? 寝ちゃったのか」
「……」
「ふふ。おやすみ。さぁて、宿題でもしよっと」



参考:YouTube - いとしの未来ちゃん 検索