乗降ドアが二つついてるタイプのエレベータの音声ガイドが好きである。

改札階とホーム階をつなぐエレベータでよく見かけるが、乗降ドアが二つついてるタイプのエレベータが好きである。ただ誤解しないで欲しいのは、私はあのFirst In, First Out構造が好きというわけではない。駅に集う人間はみな生き急いでいるからFIFOタイプは精神衛生上よろしいのだなんてそんなヨタに付き合うつもりもない。私が好きなのはあの音声ガイドだ。
といっても「こちらのドアが開きます」というタイプの音声ガイドは嫌いである。たいていスピーカーの位置が不明瞭で「こちら」がどちらなのかわからない。私が好きなのは「反対側のドアが開きます」というタイプである。とても美しいインタフェイスだ。
この音声ガイドはインタフェイスとしての条件「正しく情報を簡潔に伝える」点で大変美しいのだが、さらに言うとその「正しさ」を導くために乗客の知性を“信じている”点がとても好きなのである。乗客を子供扱いしない。過度なフールプルーフはインタフェイスとしては下の下だ。
ガイドは問いかける。
「(おまえはそこから乗ったのだろう?)」
「(ならば反対側がどちらかはわかるはずだ)」
「(そのことを導き出せる脳をおまえはもっている)」
「(だから私は言おう)」
「反対側のドアが開きます」と。
ちいさな声で、ああわかったよ、とつぶやき私はドアを降りる。今日も会話の相手はこのエレベータだけである。