事件の真相 - 藍より出でてなおあおい。

27億年前、彼女は藍藻(シアノバクテリア)だった。周囲の藍藻たち同様彼女も、あの浅瀬の方、天からの光が強く感じられるあの場所に興味を抱いていた。昨日までは。


昨日、彼が死んだ。死は日常茶飯事だったし、多くの藍藻は生きることにしか興味がなかったから、皆、彼のことをすぐに忘れた。彼女は忘れなかった。


わしらはあの光のほうへ進む。おまえはどうする?
長老が問う。
わたしはここに残ります。今の彼にはもう光は届かないから。暗いところに一人じゃかわいそうだもの。


かくして一体の藍藻光合成生物への変化を踏みとどまる。19億68年12月10日、雷雨の朝だった。


この一体の行動が、光合成の副産物である酸素生成に遅延をもたらす。地球全体の酸素飽和の臨界点到達が遅れ、そのことがオゾン(O3)層発生を遅らせ、ひいては陸上を生命活動可能な環境に変化せしめるのを遅らせた。今から7億年前におこるべき陸上生物の発生が、4億年前の発生にまで遅れた。


通常のG型恒星系生物が恒星間航行種族として宇宙に出るにはその惑星の誕生から43億年かかるといわれている。地球生物はその雛型から約3億年遅れて、やっと宇宙航行種族連合の一員となったのである。この遅延の引き金となったのが、一体の藍藻のあの決断だったのだ。


これが、いわゆる3億年事件の真相である。