ほら降らない。

「今日、雨降るんだってさ」
「そなの? けっこいい天気だよ?」
「だって愛ちゃんがそういってたぜ? 愛ちゃんに言われちゃあそりゃ雨も降るでしょ」
ムっとする彼女。
「降らないよっ」
「? 何怒ってんの? ……あ、ほら! みてみ。降ってきたじゃん!」
ふくれっつらのまま鞄から傘をとり出す彼女。バサッ。ひろげた傘を手にしておれの横に立つ。
「ほらね? 降らない」
みたいなことがいつか自分の身に降りかかるのではないかとなかば本気で思っているので、会社に置き傘しない主義なわけですけれども、ただ問題は、おれが愛ちゃんの天気予報を見ていないってことと、愛ちゃんのフリ振ってもムッとしてくれる女性が近くにいないことですね。条件揃わなすぎ。100年待っても事件が起きない。