おれとチン毛とタクティクスオウガ

おれが小六だったころ、漫画やドラマの中ではチン毛生えてないなんてダッセー的価値観が蔓延していたわけだけれども、逆に現実周辺ではチン毛関係はアンタッチャブルだった。むしろ、生えてないことを誇る風潮があった。
いま考えると学年のボス的いじめっこがちびっ子で、そいつにチン毛生えるのは学年でラストだろうっていう予測みたいなものが、あのチン毛バッシングの空気を生み出していたんだと思う。
ただ当時のおれたちはそんな冷静な分析なんかできなかったから、ただただチン毛が生えるのを恐れていた。もし生えちゃったらワンピ空島編のセトが樹熱のあざを「消えろ! 消えろよ!」ってやったアレばりに、チン毛を石でこそげ落とすほどの勢いで恐怖していた。チン毛生えは小六社会から抹消されることと同義だったのだ。チン毛イコールデッドだった。おれチン毛生やすくらいなら大人になんかなりたくない。だれもが心にピーターパンを飼っていた。
そんなある日、おれにチン毛が生えた。
抜いた。抜きまくった。デ・ニーロみたいに抜きまくった。でも次から次へとどんどん生えた。チンコは伸びずに毛ばっかり伸びた。チンコが硬くならずに、毛ばっかり剛毛になった。トイレではチンコをひたかくしにした。合宿の風呂は恐怖だった。学校に行くのが恐怖だった。
だが自体は急変した。いじめっこにわき毛が生えたのだった。学年中の男子が安堵のためいきをもらす。その音が校舎中から聞こえたような気がした。なにか目に見えないつながりを70人近い男子全員が感じていた。おれたちはチン毛を生やす自由を獲得したのだと気づいたのだった。





そのときのことを思い出したのは、ちょうどファミコン版のタクティクスオウガをやっていたときのことだ。
画面内には竜を操るキャラクター、ドラゴンテイマーが足踏みしている。
その姿をじっと見入る。
あ……
「もしかして、テイマーって《剃毛する人》って意味なのかな? そうかもしらん。あー、そいやチン毛といえばあのときのことを思い出すなー」
とか、そんなノリで。