【ウンコ賞】黄金の意味
「そこが間違いなのだ! ウンコは食物の残滓にすぎぬというその考え方が!」
「なにをっ!」
「では問うが、リンゴを食べたときのウンコとみかんを食べたときのウンコとで何かちがうか? 硬さ、匂い、そういったことではなくウンコの本質として考えろ!」
「……確かにちがわない。ウンコはウンコだ。何を食べても、出てくるのはウンコ……」
「そうだ。であれば、こうもいえるだろう。ウンコとは食物の根源。ウンコというOSの上に味、香り、触感などのアプリがのって彩りを添えてはいても、食物の本質はウンコなのだ」
「……」
「頭の悪いお前でもわかる質問に変えよう。食物の五大栄養素とはなんだ?」
「炭水化物、たんぱく質、脂肪、ビタミン、ミネラル」
「ミネラルを除く4つについての共通点はわかるな?」
「ああ」
「そしてだ。ウンコはな、UNCOと書かれることが多いが、正しくはUNCHOと書く。ここまで言えばお前でもわかろう」
「まさか……」
「そうだ。ミネラルを除く4つの栄養素はすべて有機化合物であり、炭素、酸素、水素、窒素からなる、そして……」
「そして、ウンコ……UNCHOもまたN(窒素)、C(炭素)、H(水素)、O(酸素)からなる有機化合物……四つの栄養素と同じものというわけか。なら、UNCHOのUはなんだっ?!」
「アルティメット」
「究極の……有機化合物……。究極の食物か!?」
「あるいは、至高の」
若い男ががっくりとひざをつく。プロジェクトの同僚で彼の妻がかけよる。
「……こんな身近なところに究極の食物があったのか……アルティメットNCHO……確かに、まじりけなしの純粋な食物だ」
「たまにコーンは混じるがな」
高笑いしながら初老の男が会場を後にする。
くずおれた若い男はその後姿をただただにらみつけるしかなかった。
そこにはもはや親子の関係など皆無なのだった。
- 作者: 雁屋哲
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