WとYの話。

あのころのおれは、WとYのことが大好きだった。ノートや黒板にびっしりとWとYを書いていた。いつもWとYを組み合わせては、女体をイメージしてた。
でもいつからだろうWとYを組み合わせてもそんなに興奮しなくなった。むしろ3と←の組み合わせを見ては、おしりをむずむずさせるようになった。
多分ウォシュレットに出会ってからだと思う。
初めてのウォシュレット。その圧倒的な水流に翻弄されたとき、おれの視界の端にうつったのはウォシュレットボタンのアイコン。それは3と←の組み合わせだった。3←だった。



手帳を開き、その端に3と書く。ちょっとだけためらってから、横に←を書く。
「矢」の部分を気持ち長くする。穴にあたってはぜる水流。結構な水圧。背筋がゾクゾクする。下半身に力が入らない。それくらいの。
ふうっと息をはいて、今度はトイレに備え付けられた本物の「切」を押す。
紙をとろうと手を伸ばし、でもその指は宙でとまどい、とどまり、もう一度「3←」のアイコンを捜し求める。
水が吹き上がる。
いまおれ自身が3←になっていることを肌で感じながら、ふと手帳にWとYを書く。いつもそうだったように、Wが上でYは下。おれはWとYを見つめながら、わけのわからない罪悪感を覚える。
WとYはあのときのままなのに。変わっちまったのはおれのほうなんだろうな。
いたたまれない気分になりながら、それをペンで塗りつぶし、手帳を閉じる。
それでも消えない罪の意識を振り払うように、おれは水圧ボタンのメモリを強にする。そうすると少しだけWとYのことを忘れられる。そんな気がした。