エイト・レッグス・トゥ・ホールド・ユー

新ジャンル「多脚婦人警官」
http://d.hatena.ne.jp/firestorm/20070721/1184978544

多脚というよりコウモリダコ的な
http://d.hatena.ne.jp/kashmir108/20070721/p2

「そもそも制服がスカートなのは私たちのためなわけじゃん? 何本でもいいように」
パフェのスプーンを口にくわえたままのセンパイがそう言う。テーブル下で組んだデカレッグス(10本脚)がプラプラとゆれる。キレーだなー。あ、また新しいアンクレットつけてる。
「脚は私たちの魅力の一つなのよ? ペンデもさ。もっとおしゃれしなよ」
ペンデってのはアタシの愛称だ。ペンタデカレッグス。15本脚-高層域用都市型婦人警官。
「……アタシはセンパイみたいにかわいくないし」
「まーたそういうことを。ペンデ、自分のかわいさわかってないから。あ、そだ。こないだアンタに似合いそうなウェッジソール見かけたの、あれプレゼントしちゃえばよかったね」
「そ、そんな! 申し訳ないです! 15本脚用って、値段馬鹿にならないし」
「そーいう気の使い方しなくていいの。アンタは私のカワイイ後輩なんだから」
「……はい」
センパイはいつもやさしい。アタシもセンパイみたいになりたい。
「そゆやさ?」
テーブル越しにセンパイがにじりよる。センパイ、顔が近すぎます。
「ニホンアシの彼とはどうなった? 交通課の」
「……別れました」
「へ?」
「多脚とは踊れないとかって。アタシ、彼の足ふんづけちゃって……」
「なによそれ! 自分のステップがへたくそなだけじゃないの?! ぶんなぐってやる!」
「やめてください! アタシ大丈夫ですから」
立ち上がろうとした先輩に必死にしがみつく。対重機タイプのセンパイをアタシがとめられるわけないけど、でも。
懸命に止めようとするアタシを見て、センパイがふっと力を抜いた。
「……ま、そんなヤツ殴っても脚が減るわけじゃないしね」
「はい」
アタシたちは知ってる。多脚はアタシたちの存在理由だし、みな自分の脚の本数に誇りを持ってもいる。それでも。
それでも、少ない脚にあこがれる気持ちは、ある。
「ペンデ」
「はい」
「偉くなろう。偉くなれば脚を取ってもらえる。装備課だって誓約は守る。私の口癖覚えてるでしょ?」
「『正しい姿になりたくば、偉くなれ』ですね?」
「そ。……昔のムービーのパクリだけどね」
センパイがウィンクする。思いっきり笑いあうアタシたち。
けど、テーブルの下では互いの8本の脚を絡めあっていた。
相手がそこにいることを確かめあうように。






当時のことを思い出した私は7本になった自分の脚を見下ろす。警視になった今ではヘプタと呼ばれてる。あの警察署出身者の中では二番目の出世頭だなんていわれてるけど。
もちろん。
一番の出世頭は先輩だ。
壇上で先輩が挨拶を終えた。
多脚初の警視総監となった先輩の初仕事を見届けた私の胸に、熱いものがこみ上げる。
軽いステップで壇上を降りる元・多脚婦人警官。
モノ警視総監。
彼女が私に気づいてやさしく微笑む。
あの当時のままの笑顔で。
今、彼女のモノレッグ(一本脚)は世界で二つとない美しさに輝いている。
そうおもった。

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タイトル参考:ハニフ・クレイシ「エイト・アームズ・トゥ・ホールド・ユー」