母の作る弁当にはいつもミックスベジタブルが入っていた。

高校に入学して一ヶ月、購買のパンが5分で売り切れてしまうことを学んだおれはもっぱら母お手製の弁当を持っていったのだった。
昼休みのチャイムと同時に、弁当ひっぱりだし、フタを開けては毎回同じ反応をしていたように思う。
「母さん、やってくれたな。ミックスベジタブルとプラスチックの箸……思いつく限り最悪の組み合わせ、おそらく未曾有のバイオハザードになる」
バイオハザードつうか、ようは食べるのに手間取りすぎて昼休みがなくなるっつう。
なんなんだろうね、ミックスベジタブルてのは。
言ったら、ヤツラて存在そのものからしておかしい。だってあいつら人に食べられようって気がないっしょ。ニンジンはまだいいんだよ。四角いし。箸でつまめる。問題はコーンとグリーンピース。丸くて小さいだなんて、箸との相性最悪じゃん。そればかりか、バターで炒めてあるとか。つるつるつるつる、どんだけつままれたくないんじゃいっていう。食べ物の幸せがヒトに食べられることであるならば、ミックスベジタブルは不幸の星のもとに生まれたとしか思えないんだよね。もうね。ミックスベジタブルを弁当にいれちゃダメだよ、頼むよ。母さん。
次の日、弁当のフタをあけるとまたミックスベジタブルだった。
ただ一つ、昨日と違っていたのは、箸と一緒にスプーンが入っていたこと。
そうまでしてミックスしたかったのかい? 母さん。