少年と船

僕が公園で友達と遊んでいると突然、彼女の顔がドット欠けを起こした。まただ。多分また船が座礁したんだ。船体修復にリソース割いてるんじゃないかなきっと。僕は樹木の陰のパネルを操作し、友達と公園を消して、父さんの待つ船橋へ向った。
「父さん! また座礁?」
「おまえか。ちょうどよかった。話がある」
父さんは普段とフンイキが違った。いつもなら頭掻きながら「ああすまんすまん」て言うのに。
「近頃《座礁》が頻発しているのは知っているな?」
「うん。フォイルが下にひっかかりやすくなってるんでしょ?」
フォイルっていうのはハイプ中の船を通常空間に沿うようガイドする羽だ。水中翼船っていうのに似てるって父さんは言ってた。通常空間から船がすこし浮いてるから速く飛べるんだってさ。
「界面が下がってるんだ。フォイルが底にぶつかる。通常空間の密度が急激に落ちていて、ハイプスペースが安定してないんだ」
「よくわかんないよ?」
「前回の座礁で窓の外を見たろう?」
「うん。いつもみたいに青くなかった。黒かった」
「そうだ。宇宙が晴れてきたんだ。もう飛ぶのは終いだ。わしらは上陸せねばならん」
上陸? 船はずっと飛び続けるもんだと思ってた。死んだおじいちゃんもそう言ってたし、教育ソフトもそう教えてくれてた。
「わしらでこの旅を終える。さあ、ハイプアウトするぞ!」
そう言って船橋の薄汚れた掲示装置を指差す。
ずっと【行き先:ノー・ウェア(どこにもない)】と表示してた掲示文字が、ゆっくりと滲んで【行き先:ナウ・ヒア(いまここ)】に切り替わる。
船が実体化すると、眼前に若い恒星が輝いていた。その周囲を惑星らしき土くれが周回している。行き先はあそこかなと思って父さんのほうを振り返る。いない。ハイプ用プログラムだった父さんも役目を終えて消失したんだ。
あとは僕の番だ。
操作パネルを起動する。
僕の《ノー・ウェアの箱舟》は土くれに向かってゆっくりと降下をはじめた。