ウロボロス・ウロボロス

インスパイア元『フーダニット・ハウダニット
http://neo.g.hatena.ne.jp/objectO/20070201/p1

「これが鍵?」
10cmにも満たないガラス製のアンプル。幾十ものセキュリティを突破し到達した部屋に、それは保管されていた。薄汚れたラベルには天使の翼のような絵が描かれている。任務の前の博士の話を思い出す。


 * * *


「探偵効果を知っているかね?」
「もちろんです。周囲の殺人発生率を上昇させるものですね。現在のテロの8割がそれによるものですから」
「なら話は早い。今回君にやってもらいたいのは、テロ探偵の撲滅じゃよ」
「では、ついにテロ探偵の養育機関を見つけたのですね?」
「うむ。捜査部門にはかなりの犠牲を強いてしまったが、ようやく一つの都市が浮かび上がったよ」
「都市……ですか?」
「まさしく都市じゃ。……君は疑問に思ったことはないかね? 高性能な探偵効果を有するテロ探偵を育てるのに、周囲の人間は死なないのか、と?」
「あります。昨今のテロ探偵は一夜で街を滅ぼすほどなのに、それまでテロ探偵はどこで生活し、どうやって成長してきたのか」
「もともとは二人の男に端を発する。その男達は必ず不運な事故に見舞われるが絶対に死ななかった。そして男達の幸運の影には一つの鍵があった」
博士はスクリーンにその《鍵》を映し出す。
「これの周囲では、男達は死なない。圧倒的幸運が発生しているようなのじゃ。それに目をつけた戦争屋が鍵の幸運に守られた男達と、事件を引き起こす探偵達を一つの都市に閉じ込めた」
「……」
「連中はウロボロス・システムと呼んどる。探偵の殺人召喚率と、男らの事故回避率は互いに働き拮抗しあい、その性能を極限まで上げてゆく。無限循環の成長システムじゃ」
「まるで、蠱ですね」
「蠱よりもたちが悪い。生き残るのは一匹ではないからの」
「……私の任務は、その《鍵》の奪回あるいは破壊ですね?」
「そうじゃ。《鍵》を破壊した時点で、都市は内破するじゃろう」
「了解しました」
「もうひとつ……殺人効果が都市内部に向かうとき、その中心にいる君の命は保障されない」
「了解しました」


 * * *


おれは覚悟を決め、《鍵》を手にした。アンプルのラベルを見ると、それは天使なんかじゃない。鷲のマークだった。渾身の力をこめてアンプルを床にたたきつける。中の液体が床に飛び散り、次の瞬間無数の殺人の因果がおれの体を貫いた。




参考:リポビタンD - 歴代CM出演者(Wikipedia)