気がつくとおれは知らない階段にいた

おちついて記録しよう。あー、おれは今階段にいる。……いやちがうな。どこまでつづいているかわからない階段室のような場所にいる。石、いや金属にも見えるがとにかくそんな材料でできた階段構造の場所だ。20段から40段くらいの不規則な数で階段がつづき、踊り場でおりかえし、また階段になっているような場所だ。

気付いたら踊り場で倒れていた。最後の記憶はコンビニで夕飯を買ってたとこまで。ビニール袋の中に弁当が残ってたからそこまでは間違いない。それ以降の記憶がぷっつりないが……。
最初パニックになって出口を探した。上下とも何十段か辿ってみたが出口はなかった。携帯も通じない。わけがわからない

上か。下か。どちらかに進めばきっと出口はある。悩んだあげく上に進むことにした。下はなんだか不気味だ。

途中から階数を数え始めた。階段の数が違うが、そんなことはまあいいだろう。

93階。最初のパニックのとき弁当を食っちまったのが悔やまれる。腹が減った。

247階。腿がいたい。腹が減った。喉もかわいた。

422階。おかしい。こんなに高い建物がありえるのか? 400階っていったい何メートルだ?

435階。どうかしてた。そうだ。こんな高い建物なんかありえない。だとすれば、ここは地下だ。よかった。最初に下に向ってたら絶対逆だったろう。上にいけばきっと地上に出られるはずだ!

水だ! 壁の隙間からしみだしている。すこし休もう。食い物が欲しい。

まだ水場にいる。 水のあるところだからもしやと思って張っていたら、いた。鼠に似た動物をつかまえた。このさい食えれば文句はない。

688階。水はビニール袋にいれた。鼠に似た動物も何匹か捕まえた。いつまでもあそこにいるわけにはいかないので登り始めたが、やはり先が見えない。

1290階。もしかして地下じゃなかったのか? 降りるべきだったか? 高さにしたら何km登ってるんだ?

2062階。水とくいものはときどきみつけることができるが、出口がない。ちくしょう。

4800。

いちまん

……

風? どこからか風が流れてきている気がする! 18033階!

ついに。出口を見つけた。あの壁の切れ目は扉だと思う。やっと……っうっうっうっ……

……そんな……


携帯電話のボイスメモはそこで途切れていた。私は携帯を死体のそばに戻し、改めて周囲を見回した。彼が最期に見ただろう光景、そしてそれは私が目を覚まし最初に見た光景でもある。
果てが見えないほどの広大な空間に数え切れないほどの巨柱が林立している。そのすべてに扉がついていた。彼がよりかかっているのと同じ形の扉が。