主人がオオアリクイに殺されて1年が過ぎました。

主人はシンガポールに頻繁に旅行に向っていたのですが、
それは遊びの為の旅行ではなかったのです。
収入を得るために、私に内緒であんな危険な出稼ぎをしていたなんて。

「オ客サン、コノ先危険ネ。ゴールデンオオアリクイ出ルヨ」
「おれはそのゴールデンオオアリクイに用があるんだよ」


シンガポール島から東200kmに位置するテコング島。おれはここに、伝説の生き物を捜し求めやってきた。
名をゴールデンオオアリクイという。14世紀のジャワの記録をはじめ、ラッフルズの手記、そして大東亜戦争での日本兵の証言に数点の記録が残る伝説の生き物。時の中将パーシバルは「最も天国に近い生き物」と称している。
だが、そういったプラスのイメージに反して、現地民の間では「死の象徴」として扱われているフシがある。いったいその差は何なんだ? どうして真逆の評価が下される? おれはこれを確かめる必要がある。行かなくちゃいけないんだ。出発前夜、おれが熱く語ったらさやかの奴、苦笑いしてこう答えてたな。
「あなたのそういうところ好きよ」


ゾワっ。全身を悪寒が走る。何かわからないが体に異変がおきた。
「銀色ノ軍隊アリヨ! ニゲテ! ソイツモ危険ヨ!」
足元を見ると、右ひざから下が銀色の蟻たちで覆われていた。ズボンのすそからも入り込んでいる。蟻を追い払おうと急いで衣類を脱ぎ、タオルで払い落とす。間に合わない。下半身に痛みと痺れが交互に押し寄せる。


「ソイツガイルトコロニハ、ゴールデンオオアリクイモ出ルノヨ! ニゲルノダヨ!」
ガイドが数歩後じさるが、それ以上は動けなかった。銀色の膜が一瞬で彼を覆いつくす。
「ギャァーー」
ガイドの断末魔の叫び。おれも同じ運命か。さやかには悪いことしちまったかな。そうつぶやいてあきらめかけた矢先、奴が現れた。まばゆく光る金色の巨体。悲しみに満ちた瞳。常に出し入れされる虹色の長い舌。記録どおり。ゴールデンオオアリクイだ。


ヤツがものすごい速さで歩み寄る。その間にもおれの下半身は蟻に覆われつづけ、ついには股間にまで届く。痛ッ。おれが痛みを感じるのと同時に、ヤツが虹色の舌を伸ばす。高速で出し入れされる舌が次々と蟻たちを食べ続けた。虹色の舌は温かく、おれの皮膚を癒すように刺激する。ああッ。おれはあっという間に昇天する。これか。パーシバルの言っていた天国というのは、これのことか。


銀色の蟻たちは足を伝い、おれの股間の裏、蟻の門渡りに至りそこでゴールデンオオアリクイに食われ続けた。舌のぬくもりが門渡りを間断なく刺激する。おれは快感を感じ続け、昇天し、昇天し、また昇天した。もはや何もかもがどうでもよくなった。おれはただその快楽に身を委ねた。


6時間後、ゴールデンオオアリクイがおれのもとを去る。恍惚の表情を浮かべたまま、おれは死んでいた。